低血糖症状で倒れた重度の偏食児!それって、自閉スペクトラム症なの?はたまたの一種のネグレクト?その①  ~低血糖の病態とその対応~ | ももいくジョブ

はじめに

明けましておめでとうございます。 今年も、子どもの命を護れる保育者のあなたに、「幸」多き未来に向かって頂けるように、ちょっとした、でも大切な色々なことを話しますね。 今年の第一弾は、昨年、私が担当した東京都保育士等キャリアップセミナー研修会(保育所におけるアレルギーガイドライン)でのこと。内容は、アレルギー性の気管支喘息、アトピー性皮膚炎の病態とその対応(アナフィラキシーショックを含めて)だったのですが、余談で、低血糖の対応も話させて頂きました。その会終了後、参加しておりました栄養士の先生から以下の質問を受けました。

栄養士の先生からの質問

『お預かりしている園児が、ふらついて倒れてしまい、嘱託医に「低血糖」という診断を受けました。この子は、毎日、何も食べずに、園にきて、他の園児と同じように、遊びまわるが、給食やおやつを全くに食べないので、心配です。倒れてしまった場合の対処法と、その子の極度の偏食をどのように対応していったらよいですか?』 『この子のお母様と連絡をとり、園が提供する給食等を食べないので、家での偏食状況などを伺おうとしても、その子の姉も、凄い偏食だったら大丈夫と、心配どころか、それが普通という感じで、どう対応していったらいいですか?』 園の食べ物を拒絶するわが子が「低血糖」で倒れた事実を聞いても、なんとも感じない、その子のお母様は、キャリア女性だそうです。自身の仕事には熱心だが、子育てにはあまり関心がない、ネグレクトまではいかないが、子育ては………、専門である園でお願いします。というような親御さん、今回のお母様に限らず、ふつうに見受けるようになりましたね。

とても危険な低血糖

まず、今月号は、低血糖等の病態とその対応、特に一刻を争う低血糖の対応についてお話しさせていただきますね。 先程の栄養士の先生からご質問いただいたお子さんの場合は、Ⅰ型糖尿病(主に先天性の小児糖尿病)の低血糖(顔色が悪くなり倒れてしまう)対応と同じです。ジュース、飴、そして保育園で、飲み物を飲まないということでしたら、脱水状態も考えられるので、吸収率の高い、果糖ブドウ糖液が含まれる低浸透の経口補水液でも、味を薄めたジュース(果糖は単糖類なので吸収が早い)も良いです。特に、運動前や午睡前のおやつに糖質を意識的に摂取させていく方法を探っていきましょう、とお話しました。けれども、この子は、園のジュースもおやつにも手を付けないということ。とても、深刻な状況です。

子どもの低血糖は脳機能に影響を及ぼす

今一度、あなたには、「こどもの低血糖症」の概要について学んでいただきたいので、大阪市立総合医療センター小児代謝・内分泌内科 依藤 亨先生がお話された内容を以下に引用させて頂きますね。(引用文(一部分改変)の部分は《》内に表示させて頂きました) 《低血糖がなぜいけないかというと、脳の機能に影響を及ぼすからです。脳は大量のブドウ糖を消費します。全身の2%の重量の脳が20%のブドウ糖を消費するといわれていますが、このほとんどを血中のブドウ糖、すなわち血糖に頼っているため、低血糖になると意識障害や、けいれんなどの症状を来し、場合によっては重い後遺症を残してしまいます。 小児は成人より血糖値が低めで、通常45mg/dL以下を低血糖として扱います。これに対して成人では54mg/dLを低血糖として扱います。 低血糖の症状は、脳のブドウ糖欠乏による症状(中枢神経症状)と、一般に血糖値70mg/dlを切ると危険を感じて血糖を上昇させるために分泌される拮抗ホルモン(グルカゴン)、特に糧コールアミンのアドレナリンの分泌による症状とがあります》。

見逃せない!身体機能への影響と対処法

中枢神経症状として、ボーっとするなどの《意識レベルの低下、判断力低下、感情変化、易刺激性やけいれんなどですが、なかには視力障害、複視(物が二重に見える)といった一見わかりにくい症状もあり注意が必要です。》 《また、アドレナリン分泌による症状(自律神経症状)も動悸、頻脈、頭痛、顔面蒼白、寒気などのわかりやすい症状のほかに、発汗や吐き気などの腹部症状といったわかりにくい症状があります》。実は、深刻な低血糖状態に至る前に現れる自律神経症状が、警告のサインなので、決して見逃さないようにして下さい。 《低血糖が疑われた時はけいれんなどの重い症状に至る前に、直ちに血糖値を測定して確認することが重要です。脳を守るために直ちに糖質を摂らせる、あるいは食事が摂れない場合、いち早く嘱託医の元へ行き静脈ラインを確保してブドウ糖の静注を行うことが必要です》。ですが、Ⅰ型糖尿病をかかえているなど、もともと定期的に血糖を測定していれば、糖質摂取のタイミングがすぐわかりますが、今回の質問で挙がった子は糖尿病ではないので、定期的に測ることはしていません。。。だからこそ、上記の警告サインの読み取りと、その子の状況把握(園で提供する食べ物等を食べないけど、遊びまわる)がとても大事になってきます。

感情と糖分

実は、感情の変化、易刺激性(イライラする)という症状は、血糖値をあげる際に分泌されるアドレナリンによっても起こります。とあるチョコレート菓子CMに、空腹になる→イライラする→チョコ菓子を食べる→笑顔になる、というものがありましたね。どこのものか思い出せますか?(笑)。お腹が減り、血糖値が下がると、上の図にもあるように、カテコールアミンの1種、アドレナリンが分泌され、怒りやすくなります。その解決のため、手っ取り早く、すぐ満腹中枢を刺激するチョコ菓子を食す。 でも、実は、このCMチョコレート菓子の甘味は、砂糖(二糖類)、水あめ(単糖類、二糖類)なのです。つまり、単糖類であるブドウ糖を含んでいるので、吸収が早く、一気に血糖値が上がることで、短時間で空腹感が満たされてしまうのです。 血糖値の急激な上昇の分、血糖を下げる(血液中にあるブドウ糖を細胞へと運ぶ働きをもつ)インシュリンが多く分泌されるため、むしろ、空腹時の血糖の値より、低くなりやすく、そのサインを身体がキャッチすることで、アドレナリンやグルカゴンといった血糖を上げる物質が発動します。アドレナリンは、頑張る際に働く物質なので、闘争感情(怒り、イライラ)が出やすくなりますよね。なので、空腹時のイライラをチョコで解消させるというのは、逆に、イライラ感情を簡単に引き起こしてしまっていること、ご理解ください。 容易に、インシュリンを乱用するような食べ物(血糖値が上がりやすい)は、Ⅱ型糖尿病に繋がりやすいこと、ここで合点してくださいね。学童期における2型糖尿病の増加は、菓子類や飲み物の消費増加と関連があります。これらの食べ物はEmpty food(空っぽの食べ物)といって、まったく栄養が存在しないのです。 子どもの成長には、決して必要な食べ物ではないのです。 では、イライラ感には、どんな食べ物が良いのか?それは、乳製品等に含まれる良質タンパク質(必須アミノ酸の1つトリプトファン)で解決してくれます。だって、心を穏やかに保つ働きをもつ「セロトニン」という物質は、この必須アミノ酸から作られるのですから(この詳しいお話は、また、「おだたんブログ」内でお話しますね)。 *保育園で働いている栄養士の先生なら、グリコーゲン分解による血糖値の調整や、グルコース(糖)以外の材料でグルコースを作る過程、糖新生などを、解剖生理学や生化学で詳しく学んでいますので、わからないことがあったら、その専門である栄養士の先生から、詳しく教えてもらえると思います。

偏食がゆえの低血糖症

ここで、確認してもらいたいのが、上記の文にある《ふつうの小児は24時間食事をしなくても低血糖を起こさなくて済むわけです》という小児代謝・内分泌専門の先生のお言葉です。 でも、この子は、低血糖で倒れてしまった……。園で出している給食、おやつ、まったく食べない。加えて、飲み物を嫌がる……。極度の「偏食」の結果、低血糖になってしまった。 お子さんを預かった限り、低血糖症状に至る前にいろんな策を講じておきたい。そこで必要となるのが「情報収集」ですよね。家庭でどんなもの食べているのか、そこからお話を聞き出すことができたら、その子が食べられる物を園でも提供することができます。 でも、その子のお母様は、全然、真剣に園の要望に応えてくれない。 ある程度、低血糖の症状とその対応がわかったって、家庭が協力してくれないお子さんを預かる責任の重さを抱えているのは、今回登場した栄養士の先生だけではなく、あなたを含めた多くの現場の先生も同じだと思います。 これを踏まえ次回は、子育てに関心のない、一種のネグレクトから展開される自閉スペクトラム症と自閉スペクトラム症随伴症状の「偏食」についてお話させて頂きます。 こういう子は、「あなただけ特別」という愛情の注ぎ方が大事になってきます。保育者のあなたの愛情が、自閉スペクトラム症の1つの症状、社会性の欠如(人間に興味がかない)の程度を軽くさせることも可能なのです。
引用文献:企画協力:社団法人 日本病院薬剤師会 「こどもの低血糖症について」  大阪市立総合医療センター小児代謝・内分泌内科 部長 依藤 亨

(文責:小田原短期大学 准教授 医学博士 三浦由美)

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