保護者と共に育つ~小田原短期大学・現職保育者研究会にて~

私が教鞭をとっている小田原城(神奈川県小田原市)を眼下に見渡せる場所に位置する「小田原短期大学」は、約70年の歴史をもち地元では名の知れた短大です。学科は保育と食物栄養の2つがあり、「子育てしやすい街」を目指す小田原市とともに「子育て支援ができる学生」を輩出しています。
その両学科の中軸に「乳幼児研究所」があり、子育てに関わる情報などを提供しています。そしてそこには、「現職保育者研究会」というものがあり、発達心理学専門の先生を中心に、明るい保育の未来を目指すべきヒントを探っています。
去年12月の研究会のテーマは「保護者とともに育つ」でした。
以下、研究会主催の先生*からのメール文を引用いたしますね。
『前回の「気になる子」の話の中でも、普段の業務の中でも、(私、個人としては、園への巡回相談の中でも)ご家族とどのように手をつなぐことができるのかは大きな課題です。
「あの親は理解があって」とか、「あの親は全く子どものことを理解してなくて」とか、
いやいや、保育者の仕事は子どもたちの幸せな毎日の生活を保障することであり、そのために専門性を高めあう同僚の仲間たちがいるでしょ、とは思いつつも、
保護者と同じ方向を向けた瞬間に、ぐっと、子どもも現場も楽になることは事実で。。。
子どもたちと日々、楽しいことをやっていると、親も楽しくなってきちゃって、だんだん保護者や地域を巻き込みながら、保育も思いがけない展開を迎えたりもするのですけれどね』
*小田原短期大学 臨床心理士 准教授 小倉直子
このような招待文が届き、保護者とともに保育するには、どうすればよいのか?参加者の皆が、100%という正答のない答えを出していきました。
保護者と一緒に子育てをするには・・・
そこで、
保護者に協力を頂くには、やはりその方たちが欲する情報(知識)を提供することが何より大事ということを、本学卒業生(病児保育園長)は、「虐待防止学会」に参加してみて痛感したそうです。そもそも、常識と思っていた虐待の4種類(心理的・身体的・ネグレクト・性的)でさえ、知らない保護者は少なくない現状をそこで知り、保育者と同じ土俵で保育して頂くためには、まず、保護者に必要な知識を提供することが重要であると思ったということです。
それが大事だからとしても、提供の方法が「保護者会」という形であれば、関心の薄い、園と距離を置きたい保護者らには必要な知識という情報が届きません。そうなっていくと、「園だより」という古典的だが欠かすことのできない方法で提供をしていくことが、やはり大切であるという事を話し合いました。
けれどです。お恥ずかしい話、私は、園と距離を置きたい保護者でした。発表会という必要なものでない限り参加しませんでしたし、保育の専門家に全てお願いしたいというスタンスの親でした(すみません)。
子どもの育ちを保護者とともにできる保育であれば、保育者も保護者も一緒に成長できるのでしょう。しかし、私のような保護者はやはり一定数いるのが現実です。このようなタイプの保護者との距離感に、荷が重いと感じる保育者は少なくないと思います。
保護者と同じ方向で保育できるよう、保護者との会話がこじれないよう、発する言葉を慎重に選びながらも伝えるべき事は伝える。これを難なくできる保育者って神レベルですよね。
保護者に心を寄せる。。。そのために、保育世界の「常識」にあてはめ寄っていこうとしたら、保護者との距離が縮まるどころか反感を買ってしまいかねません。
保護者に正しい気持ちを伝える難しさ
実は、昨年の夏ごろ、こんな事がありました。
私のゼミナールに所属する学生さん(2歳児のお母さん)から、以下のようなメールをもらったのが始まりです。
「息子が川崎病になってしまいました。ネットで調べたら、難病って!!先生、大丈夫ですか?」
難病を、治りにくい、治し方がわからない「不治の病」と思ってしまっていたので、難病といわれる解釈(川崎病の場合、原因が確定されていない)と基本的な治療方針の情報を提示(難病なら治療法が未確定だが、きちんとありますと伝えたいので)し、何より心配させないよう、「乳幼児にはよく罹る疾病ですよ」と返しました。
難病の意味と治療薬があることに安心した学生さんでしたが、「よく罹る疾病」だから安心してという私の言葉(文)に、「先生、病院の医師にもそう言われたけど、それって、なんも慰めにもならないよ。よく罹るからって、なんでうちの息子がって思ってしまうよ」と返信がきました。
保健学(公衆衛生学)の授業の中で私は、ワクチンにみられる「稀な副作用」とともに「よくある副作用」のお話しを必ずします。『よくある副作用だから安心してください、という言葉は、子どものために良かれと思って接種を決断した親御さんにとって、決して慰めになりません』と学生さんに教えている立場なのに。情けない話です。
「よくある疾病だから心配しないで」という言葉
その言葉に安心する保護者がいる一方で、慰めにもならないと嫌悪を覚える保護者もいる。
万人に受ける言葉は当然この世に存在しないが、そこを上手くやることを求められるのが保育者です。ですが、それを得意としない者にとって、自分をグッと抑え、常に保護者側に歩み寄り、その場をやり過ごしてしまいがちになります。
保護者と保育者が協力しあえる保育に限界を感じたら…
このように、事なかれ対応ばかりしていると
「喉のつかえ感など」がみられる不安神経症(パニック障害)に、気づいたらなってしまっていることも大袈裟ではありません。これは、うつ病に続いて、女性に罹患しやすい、という意味では保育者に現れやすい心の病です。
芸能人がよく罹るイメージのあるパニック障害ですが、気というエネルギーが消耗しきった「うつ病」とは異なり、エネルギーがあるのに自身を抑え(続ける)てしまうことでも発症してしまうのです。
「保護者と保育者との手つなぎ保育」という理想と、それができない現実…。あなたの性格を見つめ、それが難しいのなら、無理に理想を追いかけなくて構わないのです。だってあなたは既に、良い保育を提供できるプロなんですもの。
(文責:小田原短期大学 医学博士 准教授 三浦由美)
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