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- 新型コロナだけでない!ウイルスという奴はヒトの心も「鬱」にさせる!
ウイルスとうつ病~はじめに~

最恐なオミクロン株、あっという間に日本中に知れ渡り警戒度が増している師走。感染を繰り返し、効果が弱まるウイルスもいれば、最強な形に変身し宿主であるヒトの細胞を狙うウイルスもいる。
あなたも、人類とウイルスは、常に「いたちごっこ」によって進化していることを実感しているのではないでしょうか。
コロナとの闘いに先が見えない不安と、諦めに似た敗北感も含め、日の暮れが早い12月ともなると、仕事を含めた日常の何気ない不安や怒り(敵意)といったネガティブ感が、鬱々とした気分となって、一気にあなた自身を覆ってしまうことも少なくないと思います。
この「鬱」というメランコリーな感情から脱しえない代表的な疾患に、「うつ病」があります。
今回は、真面目な性格の保育者に多く認める「うつ病」にフォーカスをあてていきますね(正確には「気分障害」といい、その中でも代表的な「大うつ病」または「単極性うつ病」ともいいます)。
うつ病はなぜ増えた?
「うつ病」の生涯有病率は約15%と、発症頻度からするとCommon(頻繁)であるので、特別な精神疾患ではなく、誰しもが罹る可能性の高い疾患であることを、わかりやすく理解してもらうため、「心の風邪」という易しい言葉に置き換え使用していた時代がありました。しかし、心の均衡が崩れると、気分(憂鬱、重苦しさ)や意欲の変化、そして睡眠障害などが発症してしまう「うつ病」は、風邪のように簡単には治りません。
Q:なぜ、こんなにも精神疾患である「うつ病」が慢性化してしまったのか?
A:ストレス社会だからなのか?
A:同調社会の日本だからなのか?
A:個の心が弱くなってしまったのか?
いろいろなアンサー(要因)を挙げることはできますが、今回は、あの厄介な「ウイルス」で検証してみたいと思います!
ヘルペスと脳の関係
このブログの11月号記載の「表」を確認すると、10月中頃にも関わらず、子どもの3大夏風邪の感染症とともに「突発性発疹」の罹患者が多いことがわかりますね。これは、ほぼ100%が2歳前の乳幼児に感染するものであり、原因微生物は、「ヒトヘルペスウイルス」です。
このウイルスの最大の特徴は、感染した後、生涯にわたり、特にヒトの「脳細胞」に潜んで潜伏感染の形をとります。宿主(ヒト)の抵抗力が落ちてくると、これ幸いと暴れ出し、唇やその周りに小さな水ぶくれをつくる「口唇ヘルペス」などの症状を引き起こします。
この馴染みのあるヘルペスウイルスの中で「6」というウイルスこそが、「うつ病」の発症原因の1つとなるのです。
ヘルペスウイルス6は、「脳細胞」以外に、「嗅球細胞:鼻腔奥内にあり、匂いを感じとる役割と、外界らの異物を脳に送らない門番(免疫機能)という役割をもつ」にも潜伏しており、疲労などのストレスで参っている宿主の嗅球細胞内で、勢いづき、SITH-1(ヘルぺスウイルス6の遺伝子が作り出す)という厄介な物質を作り出します。
この厄介な物質は、嗅球細胞をアポトーシス(細胞が自死すること)させます。その自殺した細胞というストレス情報を、脳が危機と感知し、これに対抗すべき物質(コルチゾール)を脳内に投入させます。

また、不安や恐怖(恐怖とは対象がわかっている不安のこと。つまり、「上司が怖い」とかそんな感情)を感じる時も、脳の奥内にある、扁桃体(へんとうたい:感情を見分けそれに見合った行動を前頭葉にとらせるなどの働きをもつ)は、抗ストレス物質であるコルチゾールの分泌というオーダーを、脳の別の場所(視床下部)にかけます。けれど、「我慢」などの感情抑圧という慢性的ストレス下では、常にコルチゾールが過剰放出してしまい、働きすぎの扁桃体は肥大してしまうのです。こうなると、ちょっとしたストレス負荷で生じる感情の振幅でさえも、扁桃体は過敏に反応してしまうのです(扁桃体のもう1つの働きとして、喜怒哀楽という感情の発動があるので、感情を感じることができないなどの症状がでる)。
脳内物質コルチゾールとうつ病
このように、ヒトの身体(心身)がストレスに攻撃されている時に戦うコルチゾールは、分泌量によって「諸刃の剣」になってしまうのです。
ずーーーーっと続く我慢のようなストレスでは、脳内がコルチゾールだらけになってしまい、扁桃体細胞を脱落萎縮させてしまうのです。その結果、情動の発現という扁桃体の役割を果たせず、抑うつ感情や意欲の低下など「うつ病」の症状が出てきてしまうのです。
うつの患者さんの脳は、扁桃体の隣に位置する海馬(感情の制御や短期記憶の場、感情からの記憶の場)の萎縮も確認できます。これもコルチゾールが犯人であることに合点いくと思います。
慢性的なストレスにより、心身が疲弊し抵抗力がなくなった宿主(ヒト)に潜伏しているヒトヘルペスウイルスは、上記の厄介な物質を作り、脳内にコルチゾールを増やそうと目論んでいるのです。
その結果、扁桃体や海馬が小さくなり、「うつ病」を発症させるのです。
ウイルスとうつ病~まとめ~
「うつ病」発症の原因細胞(扁桃体)の萎縮を作ってしまうコルチゾールは、以下2つのルートで分泌が亢進されます。
① ストレス感情→感情の発動の場である扁桃体が活性化→視床下部(ホルモン中枢)に、副腎を働かせコルチゾールを出せと命令→副腎皮質からコルチゾール放出
② ストレス感情→宿主の抵抗力低下→嗅球細胞に潜伏していたヘルペスウイルス6が厄介物質合成遺伝子を発現→厄介物質が嗅球細胞のアポトーシスを亢進→異物と戦う免疫細胞の数が減るという危機をキャッチし扁桃体が活発化→コルチゾール分泌促進
こんな感じで、コルチゾールが脳内に溢れてしまうのです。
ほとんどのヒトが乳幼児期に感染した「突発性発疹」によって、生涯にわたり脳と嗅球にヘルペスウイルス6が潜伏しています。要は、このウイルスと共存しているわけですから、それを引き金に、「うつ病」になってしまうことが理解できましたね。
ヘルペスウイルス6は、いつ終わるわからない慢性的なネガティブ感情で、宿主の心身がダウンしてしまうその機会を虎視眈々と狙い、扁桃体を萎縮へと傾かせるコルチゾールを脳内にいっぱいさせてやるんだ!と、身を潜めていることを忘れないでください。
なぜ、こんなにも多くの人が「うつ病」になってしまうのか?!という現実には、今人類を悩ましている「ウイルス」にその一端があります。憎たらしいが、これが真実なのです。
宿主として、ヘルペスウイルス6の活躍の場を与えないよう、脱ストレス状態になれる性格をつくっていきたいですね。
因みに、うつ病になりにくい性格は、ズバリ「ヒトに無関心」な人です。
あなたはどうですか?
参考図書:「うつ病は心の弱さが原因ではない」 (著)近藤一博 河出書房新社
(文責:小田原短期大学 准教授 医学博士 三浦由美)
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