ももいくジョブ

いつもの夏と違い、海や川を満喫できなかったコロナ禍の今年。けれど、決まって夏になると多く目にし、そして耳にする「子どもが溺れた」という悲しいニュース。「なんで、防げなかったのか…、もっと早く気づいてあげれば…」、小さな命が犠牲になったそのニュースを前にする度、あなたもやり切れない、悶々とした気持ちを感じていたのではないでしょうか? そこで、今回「子どもが溺れやすい危険な場所とは?」、「子どもが溺れている状態って?、なんで大人は気づけないの?」、「救急車を呼ぶべき目安って?」、「溺れないため予防策」そして「子どもへの溺水事故防止教育」の5点についてお話をさせていただきます。引き続き来月号に「溺れた際の対処法(第一次救命処置)」、「冷水に溺れて時の対処法」そして「プール事故危機管理」について、「てんこ盛り」に情報をお届けしますね。

子どもが溺れやすい危険な場所とは?

まず、昨年報告された、2018年度人口動態統計(厚生労働省)のデータから傾向を押さえていきましょう。
上記の表1には、年齢別における、溺水を含めた「不慮の事故」の死因順位が記されています。男児・女児に関係なく、乳児、小児どの年代においても、突発的な事故による「死」が高いことがわかりますね。では、次にその内訳をみていきましょう。
上記の表2は、少し古い統計データでありますが、年代別においる不慮の事故の死因が上位3位までが示されています。乳児では既に、死因第2位である溺死・溺水*の危険が高いことがわかります。1~14歳の小児(1歳以上、思春期まで)においても、溺れることによって命を亡くしている事が多いことがわかります。乳幼児に多発していることを考えると、プールや海そして川とった野外よりも、多く屋内でその事故が起こっていると考えることができます。下記の表3をご覧ください。
*溺死:溺れて亡くなること、溺水:水でおぼれること、水で溺れて亡くなること。
               上記表3(家庭内「不慮の事故」)で、確認できるように、5~14歳においては、溺死・溺水が1位、0~4歳では2位と、いかに自宅で事故が起こっていたかがわりますね。 屋外より安全で安心感がある「家庭内」。その中で、実に多くの子ども達が溺れ、そして溺水している事実が読み取れます。溺水というと海や川、プールなどの場で夏場に多発するイメージですが、溺死それ自体は季節、年齢に関係なく、特に寒い時期だからこそ湯船につかる12月、1月に多いのです。 ということは、「湯船」こそ最もハイリスクな場所ということがわかります。 上記の表3にもあるように、ヨチヨチ歩きにより、一気に行動範囲に広がりをみせる1歳以上では【乳児の溺死・溺水】(5.6%)と比べて急激にその割合(26.7%)が増えています。この悲しい事実から、事故を防ぐため対策として、「湯船の水を一滴も残さない!」、「子どもだけで入浴・水遊びをさせない!」ことがとても大事になってきます。 頭が大きく、倒れやすい、且つ、いろんな事に関心をもつ、この年齢特有の特徴から、不要な水を湯船にためておくことは、危険な場所を、人工的に作りだしているようなものです。「湯船の水が少ないから大丈夫」とか「子ども達だけで水遊びしているけど何かあったら泣き声や音で、気づけるから大丈夫」と思っている保護者がいましたら、優しく諭してあげてください。その考え方は危険ですよと、保育者のあなたが。 家庭以外でも、川、海、湖そしてプールの場とった水が存在するところなら、どこでも危険がつきもとなり、注意・警戒が必要となります。 溺死に必要な水の量は鼻と口を塞げる程度、例えば、バケツの中にある水、または水たまり(深さ5cm)程度でも十分なのです。それっぽっちの水でも窒息し、溺死してしまうのが人なのです。ですから、湯船やプールの水が「子どもの膝下くらいだから大丈夫」なんてことは決してないのです。

子どもが溺れている状態って?なんで大人は気づけないの?

溺死とは、溺れた水により肺(ガス交換の場)が障害され窒息するもので、水により肺が拡大し亡くなります。また、水だけでなく、溺れた水により、肺にあったもともとの空気(この空気は、呼気として鼻や口に向かうもの)が、肺の外側へ押しやられ、肺が空気でいっぱいになり窒息死してしますケースもあります。大量の水がなくとも呼気を邪魔する水があれば窒息死してしまうのです。 では、大量の水があるプールや川などで溺れてしまった場合はどうでしょうか?見てみましょう。
水に慣れていなければ、水に落ちた瞬間からパニックを起こし、息継ぎの度に大量の水を同時に飲み込んでしまいます。その結果、気管に水が入り、咳嗽(がいそう)反射(酷い咳き込み)で正常な呼吸ができなくなります(呼気、吸気ができない)。加えて、口腔から入った水は耳管(口よ耳の連絡通路)を通り、内耳内にある平衡感覚器官に影響を与え、体位が保持できなくなってしまいます。そうすると、ますますパニックとなり、やがて力尽きてしまいます。 水に慣れている人でも荒波や早い水流、足の痙攣などが加わると助けを呼ぶこともできず、ひたすら空気を追い求め、息継ぎだけで精一杯になります。 日本ではあまり知られていませんが、米国水難救助隊の間では、「人は溺れる時、声も出さず、水面をたたくわけでもなく、静かに沈むこと」が知られています。(引用図書①) そう、呼吸をするために、必死だから「助けて!」なんて大声で叫ぶとはできないのです(本能的溺水反応)。 まして、脳の発達が未熟な、乳幼児では、「自分が溺れていることに気づかず、沈んでいく」、そう「子どもは静かに溺れる!」のです(引用図書①②)。だからこそ。周りに大人がいても気づけないのです。

救急車を呼ぶべき目安って?

溺死に至るまでは通常5分程度です。淡水(循環血液量増加=血液が薄くなる)より海水(循環血液量低下=血液が濃くなる)の方が長く生命が保たれるという報告はありますが、5分以内で「静かに溺れている子ども」にいち早く気づき、救助してあげることが必須になってきます。

救助後の受診の目安

(引用図書②) □意識がない   □呼吸していない   □呼吸がおかしい □呼びかけても反応しない   □顔色が悪くぎったりとしている          ⇒直ちに119番通報し、隊員が到着するまで、心肺蘇生を行う。 □大声で泣くことはできるが、機嫌が悪い □いつもと様子が違う          ⇒いち早く受診(委託医の元へ)すべき。 ※救助後、溺れて飲んだ水を腹部圧迫などの行為で吐き出させることはしないでください! 吐き出す過程で水が気管に入り、窒息してしまう可能性もあるからです。初動行為として間違っています! 詳しい第一次救命処置法は次の回で書かせてもらいます。

溺れないため予防策

以上のように、「本能溺水反応」というもので、静かに溺れていく子どもを助け出すことは、本当に容易ではないことがわかりましたね。 そこで、上記の予防策に加え、下記のような予防対策も必要となってきます。  ◎海や川遊びの際は、ライフガードを着用させる。  ◎お風呂は、子どもを先に出させてから、大人が後から出る。 加えて、「子どもへの溺水予防教育」(引用図書②)も必要となります。 保育者として、子ども達そして保護者にも「保育・保健通信」などで教えてあげてください。 園に入るとお友達ができて、子ども達だけで近くの川や池などに遊びに行くことがありますが、子ども達だけでは危険な川や池に遊びに行かないことを約束させましょう。

子どもへの溺水事故防止教育

ただ、万一のため、きとんと以下の点を教えてください。 ① 友達や誰かが溺れていたら大人に大声で知らせる。 ② 水の中に決して入ってはいけない 大人の場合も然りです。救助専門の方でない限り、自身が泳いで助けることは至難の業です。不幸にも助け出した後、力尽きて亡くなるケースがほとんどです。溺れている人を発見したら、直ちに119番通報するとともに、隊員が到着するまで他の方の助けを借り、人が手をつなぎ、鎖のようにつながり、水の中にいる人を助ける方法(ヒューマンチェーン)や物(上着やTシャツ)をつなぎ合わせロープ状にし、溺れている人に掴んでもらう方法、空のペットボトル投げ浮き輪代わりにする方法など、周りの大人と知恵を絞り状況に合った救助法を試みることがベストです。 また、子どもの成長に合わせ「手を広げながら仰臥位で浮く練習」や、「洋服を着たまま泳ぐ練習」も適宜行っていってくださいね。 預かった大切な命を守り抜かなければならない保育者のあなたは、一瞬の選択を間違えると取り返しのつかない結果を招いてしまいます。幸い、アクシデントまでには至っていないがインシデントから冷や汗をかいてしまったなんて経験、あるのではないでしょうか? 次回はその取り返しのつかなくなってしまった結果を招き、保育者としてトラウマ(心理的外傷)を経験した事例に触れていきたいと思います。
(文責 小田原短期大学 准教授 医学博士 三浦由美)

引用図書

①BuzzFeed.News 2019年7月24日 「子どもは静かに溺れます、目を離さないだけでは解決しない本当の理由 佐久医師会 教えてドクタープロジョクトチーム ②はじめてBOOK マンガでわかる!子どもの病気・おうちケア 佐久医師会 教えてドクタープロジョクトチーム KADOKAWA ③子どもの事故と応急手当 子どもの健全な成長のために ㈲マスターワークス