「有機野菜」は子どもの腸内細菌を増やすの?~子どもの常在菌と将来の健康との関係~ | ももいくジョブ

プロローグ

このところ、短大の授業や保育者研修会で「危機管理・安全管理」の話ばかりしている。そうしていると、ついつい潜んでいる危険(ハザード)を見つけ、その対策を考えてしまう。 そんなこんなの昨今、今年度初の「現職保育者研究会(小田原短期大学乳幼児研究所主催)」の日がやってきた。 その会に参加されていた、自然をフィールドにているこども園の先生が、このように仰っていた。 「都会で保育している時は、子どもがちょくちょくケガをしていたが、森という自然を玩具にして遊んでいる子どもにはケガがみられないと」 たとえケガをしてしまっても、その痛みを吸収していく子どもたちの能力は、大人の比ではない。 土や砂が口の中に入ろうとも、子どもらの未熟な免疫細胞たちは、それを学びに変え(異物侵入刺激による免疫細胞の活性化)強くなっていくことができるのだから。 そして、先ほど登場したこども園の先生から、こんな興味深い「謎」を受けることになった。 「無農薬で育てられた有機野菜は、子どもの腸内細菌(常在菌)を増やすの?」 自然の中で保育する先生ならではの視点である。 公衆衛生視点をもった私は、『手洗い(除菌)ばかりやっていると、むしろ〈ひ弱〉になって風邪に罹りやすくなるよ*!体を守ってくれている常在菌〈皮膚にいる表皮ブドウ球菌〉が根こそぎとられてしまうからね!でも、腸内の常在菌(ビフィズス菌等)を増やし、そこで防御することもできるよ。善玉の常在菌のエサとなる〈オリゴ糖〉とか〈キムチのような発酵食品〉を積極的に摂ろう**!』と手洗いの演習(「子どもの健康と安全」の授業内)で学生には話してはいる。 ももいくジョブ「命を守れるシリーズ第21講・第17講」 *【第17講】宿主の抵抗力を高めるファクターXって?「ワクチン在りき」の中であえて言います! **【第21講】紅葉の候、なぜ、増えている?!「子どもの夏かぜ感染症」と「感染症胃腸炎」 しかし、有機野菜を食べると腸内の常在菌が増える?という無農薬からの視点で、腸内細菌との関係を考えたことがなかった。漠然と有機野菜なんだからという思いこみより、体に良いものだろうと、それが体のどの部分に影響を与え、健康に寄与するのか考えもしなかった。   「はっ!」と、その部分に知識がないことに気づいた私は、こども園の先生の「謎」にお応えできるよう、この「命を守れる保育者シリーズ」の中で、数回にわたり「常在菌とそれが子どもの将来の健康を決定してしまう」というお話しをお届けしたいと思う。

常在菌に支配されていた人間

ヒト細胞1個につき、ヒトと共生する微生物(常在菌)が1.3個、その菌の総重量は1500g成人男子)。そしてヒトの遺伝子1個につき、約100個の常在菌遺伝子が存在する。 これら常在菌遺伝子たちが、私たちの「生」の源(食べ物から生きるために必要なエネルギーや体の構成成分)を作り出しているとの報告がある。これらはヒトの細胞が産生していると習ったし、私は、そう教えもしている、しかしヒト細胞の働きを、常在菌遺伝子たちが黒子のように手助けしていたとは驚きであり、感情を作り出す物質も常在菌無しでは作ることができない。常在菌がいなければヒトが成り立たないという事実にはただただ衝撃を受ける。 3歳までは、毎日毎日、微生物を取り入れ獲得していく流動性時期であり、この頃までに大人と近い種類の常在菌が得られ、それは、その後の健康を左右するものとなる。 だからこそ、 月齢が低い段階から、あらゆるルート(食べ物、場所、動物など)を通し菌に触れ、それを取り込み、共生できる常在菌を作っていかなければならない。 因みに、ここでいう菌とは、病気を引き起こす病原微生物ではなく、古代からヒトと共に生活をしていた無害な罪なき微生物を指している。

「ばっちい土」を食べてしまった!でもそれって、アレルギー発症を予防しているのかも!?

「泥だんご」を作りながら、それを食べてしまうという行為は、病原菌が土にいない限り、子どもの免疫系をアップしてくれるし、ばっちい(汚い?)土が口に入ろうが、ヒトが分泌する唾液には殺菌作用をもつ物質も含まれての、慌てることもない(土中に1gあたり、10億個の細菌、真菌、ウイルスが存在)。 土を食べてしまった!怖い!これは、清潔環境に慣れてしまった、ある意味必要のない恐れなのである。 こんな研究報告もある。口に指を入れる癖のある子どものアレルギーの発症が38%だったのに対し、口に指を入れない子のそれは49%であった。これは、昔から言われ続けていた衛生仮説(除菌による清潔環境ことがアレルギーの発症を高める)を証明している。土を食べる事もこれと一緒であり、体内に菌を入るという刺激により、免疫細胞は本来の正常な働きを果たすことができるという訳である。

有機野菜と常在菌

スタンフォード大学の報告では、通常の栽培法と無農薬で育てた有機野菜の残留殺虫剤濃度を調べたところ、それぞれ38%、7%であった。当たり前だが、有機野菜の方は殺虫剤の残留は少ない。 また、他の研究では、有機野菜を食べた小児の尿中には残留殺虫剤が少ないとの報告もある。 これは、体内を通過する農薬が少ないことを意味している。 ただ、現時点では、殺虫剤が人の常在菌に与える研究は存在していない。 一方、除草剤(グリホサート)の研究では、免疫系が変化し炎症を与えることが証明(統計上の研究)されてはいるが、暴露実験(除草剤をそのまま投与するという)の結果ではため断定はできない。 また、比較的高濃度に曝されたものを食した妊産婦から生まれた子と、そうではない子を前向きに追った研究では、農薬濃度の高いものを食べていた母親から生まれた子は、そうではない子と比較して。小学生時の知能指数が低かったとの報告はあるが、一般的に、市場に出回っている野菜などは、残留農薬検出の上限値が設けられているので、その値が下回っていれば、やはり害はない。

有機野菜と妊婦

有機野菜と安価な食べ物を栄養面で比較した研究からは、有機野菜だからとて優れていたという結果は得られていない。有機野菜を摂取すると、母乳の質を高めるとか妊婦が健康になるといエビデンスも存在していない。ただ、「体に良いものを食べているから健康になる」と思ってしまうと、おまじない効果(プラセボ)より、健康になってしまうことは否定できない。が、それは、有機野菜が直接、常在菌に影響を与え、健康になったということを証明したものではない。

有機野菜は子どもの腸内細菌を増加させる?アンサーです!

有機野菜そのものが、直接、腸内細菌に影響を与えるという研究は現時点ではない。 有機野菜の研究であっても、農薬を視点とした「農薬と免疫細胞との関係」をみた研究は存在しているが、それは常在細菌との関係をみたものではない。 研究は行われていないが、有機のみならず「野菜」そのものには体によい栄養素が含まれている。子どもにとって、野菜についている土も、畑で有機野菜を収穫することも、良い常在菌を獲得する上で必要な要素となる。そして、摂れた野菜を漬物(発酵食品)にし、それを食すという要素も、子どもの善玉常在菌(腸内細菌)の数を増やし、その働きを良くしてくれる。 以上のことから、「有機野菜の取り巻く環境は、子どもの常在菌環境を良くする」というのが、私なりのアンサーである。 参考図書: 子どもの人生は「腸」で決まる~3歳までにやっておきたい最強の免疫力の育て方(東洋経済新報社)

(文責:小田原短期大学 医学博士 准教授 三浦由美)

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