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- 熱中症死亡事例で考える「救急車要請」のメリット
熱中症の理解と対応

寒気や暖気と、気温が落ち着きを見せない中、高湿度とマスクも相まって、「熱中症」の危険が更に高くなっているこの時期、またも、防げたであろう事故が起こってしまった。
急遽、以下の事例を基に、「熱中症の病態理解・対応と教員に発生する注意義務」を、担当する授業内で解説していきました(タイムリーな事例は、学生さんでも当事者意識をもちやすいので)。
まず、「熱中症」の基本として、はたらく細胞~熱中症~(大塚製薬:もしもポカリスエットがあったなら)」のYouTube*動画を基に、病態と対策に必要な水分補給について理解を深めていきました(病態学を苦手としている学生さんでも、アニメーションなのでとても真剣に観てくれます)。
熱中症知識のベースができた段階で、以前に執筆したブログ**より、対策時の水分補給(ポカリスエット)と応急処置時の水分補給(経口補水液:大塚製薬:OS-1など)の違いと、救急車要請の判断材料である意識障害(軽度から重度)の評価(JCS)を細かに教えてきました(JCSは以下に記載しています)。
*大塚製薬公開チャンネル:
https://www.youtube.com/watch?v=uLjGAh5iyQU
**第6講:~マスク熱中症対策~ 長雨・酷暑そしてCOVIDー19…非常事態だらけのこの世界から身を守るために
(投稿は2020年8月なので、コロナ状況の記載はその当時のものです)
事例
岐阜協立大(岐阜県大垣市)は26日、硬式野球部の4年生男子部員(22)が14日、ランニング中に倒れて意識を失い、翌日に死亡したと発表した。当時、監督らは救急車を呼ばず、倒れてから約30分経過後、部の車で病院に運んでいた。部員は搬送後にコロナ陽性が判明。死因は「公表する立場にない」としている。 大学によると、14日午前11時ごろ、約1時間走ったところで倒れた。グラウンドで数十人が練習に参加。通常は20~30分で、この日はやや長かったという。監督は救急車を呼ばなかった理由に関し「熱中症だと思った。部の車で運んだ方が早いと判断した」と説明しているという。
(5月26日配信 KYODOより引用)
その1日後の他の記事では、
関係者によると、14日午前、道具が片付いていないことを問題視したコーチが、主力として試合に出ているAチームの部員約30人にランニングを指示。1時間15分ほど走ったところで亡くなった4年生部員が倒れた。倒れた後、苦しさからか叫び声を上げていたという。すぐさま学生コーチやマネジャーが駆け寄り、立たせようとしたが、立つことができなかった。また、部員が目の焦点が合わず、熱中症のような症状も見られたため、トレーナーが水分を補給させようとした。しかし、吐き出してしまい、飲むことができなかった。急を要する状態と判断したトレーナーが救急車を呼ぶよう進言したが、監督は「自分たちで連れていったほうが早い」と応じず、学生コーチが運転する車で病院まで搬送したという。
監督とコーチは4年生部員の元にすぐに駆け寄らなかったといい、部内では「どうして監督とコーチは、倒れてすぐに選手のところに行かなかったのか」と対応に疑問を抱く声も出ているという。
(5月27日配信 株式会社岐阜新聞社より引用)
事例を検証してみる
この大学生に死をもたらしたものが、「熱中症」だったのか「コロナ」だったのかは、情報がない分、筆者も推測できません。しかし、上記の事例記事の「下線」だけを読んでみても、監督とコーチの対応の悪さが際立っていますよね。
熱中症に対する応急処置の手順が踏まれていない!
事故(熱中症)発生後のマニュアルに沿って行っていなければ、死亡事故という責任を裁く法が「民事法」ではなく「刑事法」に発展してしまう可能性も出てきてしまいます。
倒れてしまった学生の意識(反応)の確認をし、「視点が合わなかった」事実をもって、意識レベルが1桁(3)だったかもしれませんが(救急車要請のレベルではない)、水分を吐いてしまった段階で、直ちに受診の必要性が出てきます。
大学生が吐いた段階で救急車を要請をし、救急隊員が到着するまでの間、深部体温を下げる処置を行うことが第1次救命処置として妥当であったと思います。
意識障害、けいれん、高体温の異変が観察できれば、熱中症「重症」レベルでるので、直ちに救急車の要請が求められます。
救急車を呼ばないで、自分たちで連れて行った方が早いと判断したことも、監督の危機回避力の低さがみて取れます。
救急車到着まで平均9分弱。この時間をどう解釈すべきなのか…
近くに嘱託医がいれば、直ぐさま、医師の判断による医療行為が入りますが、いなければどうすべきだったのでしょうか?
どう対応すべきだったのか
イメージしてみてください。
自家用車搬送は救急車搬送ではないので、車内で傷病者に対して、第2次救命の処置(損失した電解質点滴)が施せませんし、当然ながら赤信号でも止まることができません。
ですから、熱中症が重症かどうかの判断に迷ったら、救急車を要請し、専門家にその処置を委ねても構わないのです。
ただ、教員(保育者)たるもの一般市民のような対応で満足してはいけません。というのも、救急車を要請し、その間、何の処置(第1次救命処置)も施さなかったら、危機回避義務を果たしたとは言えないからです。
事故(死亡事故も含む)を起こした責任所在の裁判では、果たすべき義務の中の危険予見と危機回避行動が、適正にとれていたのかどうかが争点ポイントとなります。要は、「事故予防・事故発生後の対応マニュアル」に沿った対応がなされていたのか否か、そこに尽きるのです(決して、マニュアルを基に対応していれば、100%過失に問われることは無いと解釈しないで下さいね)。
緊急対応マニュアルは普段から読み返すものではないので忘れていたり、更新されていることに気づかないかもしれません。突然起きたことに、あなたはパニックになってしまうかもしれません。だからこそ、教員(保育者)の全員がそれを知っておかなければ役に立たないものだと思います。
熱中症が増える時期だからこそ、緊急対応マニュアルを、全員で、今一度確認しましょう!!
*意識清明・意識混濁・意識狭窄
・意識清明とは、精神(脳)活動(例:判断、認知、意欲、感情など)の舞台である意識野が明るく、その舞台は広い(一度に同時の精神活動ができる)こと
・意識野の舞台が暗くなり(意識混濁)狭くなる(意識狭窄)程度によって意識障害の症状が異なる
(文責:小田原短期大学 医学博士 准教授 三浦由美)
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