ももいくジョブ

コロナ“渦”中 報われない保育士の仕事

「緊急事態宣言」が、全都道府県で解除され1週間あまり、「コロナ不況」、「コロナ鬱」そして「コロナ禍(か:災いを意味する)という言葉が、あらゆる媒体から飛び交うまでに変貌してしまった日本。宣言解除の最中、北九州ではすでに、恐れていた第2派が、東京でも「東京アラート」が発動され、不安の中、世の中が回り始めてしまった。当然、学校も休校が解かれ、自粛などの対応をしていた園も、子ども達を受け入れていっている。ただ、「3つの密」が避けられないという園の特性から、市町村によってはまだ、自粛を保護者にお願いしているところもある。 ワクチンがない今、この嫌らしい性質をもつコロナと共存しながら新しい生活様式を取り入れ、子どもの命を護る職場で働いているあなたは、ストレスに身を曝しているようなもの。  気づいていましたか?「コロナ禍(か)」ではなく、「コロナ渦(うず)」というワードをタイトルに入れていることを? あえて、「コロナ禍(か)」という、擦れまくっている言葉でなく、国・地方自治体の行政対応に右往左往させられている、保育者のその様が、まるで、底が見えない「渦(うず)」に巻き込まれ、あがき、もがき、踏ん張っている、そんな感覚を共有してもらいと思い、あえて「コロナ渦(うず)」というワードを使っています。 コロナ渦下においても、エッセンシャルワーク(ライフラインなどに必要な仕事)である保育は、当然、必要不可欠な仕事です。けれど、同じエッセンシャルワークである医師などの医療従事者(この方達の仕事環境を支えているのに)達に向けられる「感謝」は、保育者には殆ど向けられません。自分がコロナに感染してしまう、そんな不安を感じながらも、保育者という使命感で子どもたちを受け入れ、「恐怖」と「使命」という2つの間で揺れ動く葛藤感を抱えながら頑張っているのに、報われない、それが保育のお仕事ように感じます(政府・第2次補正予算案で、医療関係者を慰労金という名で支援しているが、保育者は、対象外)。

仕事で発生するストレスを考える

今一度、「保育者ならではのストレス」について向き合ってみましょう。 その前にまず、「職業性ストレス」という概念を理解してください。

職業性ストレスとは?

「職業性ストレス」とは、仕事の要求によって、自分の知識・能力と合致しない仕事に立ち向かわなければならない人々の反応を指します(WHO:世界保健機関より)。平たく言うと、合わない仕事でも、それに合わせていく時に生まれるストレス反応です。 職業性ストレスを検出できる評価表*によると、「ストレス要因」、「個人的要因」、「修飾要因」の3つが絡み合って、「ストレス反応」が生じます。具体的に見ていくと、 ストレス要因としては、①仕事の負担(量):仕事量や残業が多いなど、②仕事の負担(質):専門性の高い仕事や責任が重いなど、③身体的負担、④対人関係、⑤職場環境、④コントロール(裁量度:仕事の決定権、自由さ)⑤適正度(自分がその仕事に向いているのか否か)、⑥働きがい、⑦仕事の将来への不安、⑨不規則勤務(交代制勤務)が挙げられます。 以上のようなストレス要因が、身体に暴露されると、以下の反応が生じます(人によって出源する反応が異なる)。 ストレス反応として:①活気、イライラ、不安、焦燥感、抑うつなどの感情変化、②疲労感(ぼやけ感、だるさ感、不快感など)などの身体的変化、③心と体の不具合を解消する手段(不安・疲労そして一時的な快楽を得るため)として、暴飲暴食、アルコールやたばこ、大麻なの薬物に頼ってしまうなどの行動変化などが見られます。 更に、ストレス要因に暴露され続けると、気分障害(うつ病)や不安神経障害(パニック障害、物質依存(アルコールや薬物依存)、摂食障害(拒食症・過食症)などの精神疾患にまで発展してしまう可能性があります。 ただ、同じストレス要因に晒されても、人によって、ストレス反応が出る者と出ない者がいますよね(ストレス反応の出方やその程度は、人によって差があるのです)。その「差」に寄与しているものが「個人的要因」と「修飾要因」なのです。これらの要因の影響次第で、ストレス反応の程度が決定されるのです。 個人的要因とは、①年齢、②性差、③気質(おおらかさ、神経質など)、④雇用状態(常勤か非常勤か)⑤自己肯定感(自尊心)などがあり、 修飾要因とは、①上司・同僚のサポート(相談にのってくれる、問題を解決してくれるなど)、②家族・友人のサポート(悩みをきいてくれる、応援してくれるなど)、③仕事・生活の満足度などがあります。 *NIOSH職業性ストレスモデル(米国立労働安全衛生研究所)および職業性ストレス簡易調査票より一部改変

努力―報酬性不均等モデル

また、もう1つ有名なストレス評価としてエフォート・リワードモデル(努力―報酬性不均等モデル)も挙げてみましょう。 これは例えば、High effort(高い努力)に対し、High reward(高い報酬)の仕事である「医師」は、ストレスを感じている割合は少ないのにかかわらず、High effort(高い努力)に対し、Low reward(低い報酬)の仕事である「看護師」は、ストレスを多く感じやすいのです。保育者も看護師と同様、責任のある仕事など、高い努力を強いられるが、それに見合った報酬はなく、ストレスが高い職業と言えます。 努力―報酬性不均等モデルでの、高い努力要因には、①時間的プレッシャー、②長時間労働、③責任、④介入があり、低い報酬要因には、①不十分なお給料などがあります。

保育士だから抱えるストレス要因

では、ここから、保育者ならではストレスを、上記のストレス要因に当てはめていきますね。 保育者ならではのストレス要因(コロナ渦中保育ストレスも含め) ① 仕事の負担(量)・長時間労働: 子どもお世話以外にも、日誌、連絡帳、保護者へのおたより作成など、仕事の量が半端ではありません。ICT導入済みの園も増えてきたかとは思いますが、今だに未だに「手書き」を推奨している園も少なくありません。お遊戯会や誕生日会などのイベントの飾りを自作するなど時間外労働が多い仕事場です。まして、コロナ渦下では、その対策の消毒に追われながら、子どもたちを安全に迎えるため、出勤時間を早めている園も存在しています。 ② 仕事の負担(質)の高さ、責任の高さ  子どもたちの命を預かっている保育者は、専門的な知識と技術を求められ、決してミスがあってはならない責任がとても高い職種です。コロナ渦の中、子ども達に感染させてはならない、この園から「クラスター」を出してはならないと、神経をすり減らしながらの保育を強いられています。 ③ コントロール(裁量度低い・自由度低い) コロナ情勢が日々変化する中、各自治体によっても、園の経営者によっても、自粛して休園にするのか、時間短縮するのかなど対応がまちまちです。あなたが、もし、園の設置者で、運営の決定権があっても、行政の要請に従わなければならないし、自身の裁量で自由に決めるとこができません。また、あなたが、もし役職のない、保育者であったのなら、園の決定と方針に従い、感染が怖くても働かなければなりません。まったくもって裁量、自由はなく、トップダウンの指示系統の園の中で動かなきゃいけないなんて、働く意欲が簡単に削がれてしまいます。 ④ 職場環境・人間関係 下が上の者に、物申すような環境ではなく(風通しが悪い)、しかも、女性が多い職場。そこから生まれる複雑な人間関係は、相当のストレスフルです。社会脳が発達している女性は、和を重んじ、周りとの調和を得意とするので、顔色や空気をキャッチしやすく、他者に考えや行動を同調させながら働く傾向があります。不本意ながら、周りと足並みと揃え、自我を抑圧させなければならない職場。そんな閉塞的な環境を生みやすいのが園でもあります。また、一筋縄ではいかない保護者との対応もプレッシャーが高く、保育者の疲弊を招く業務内容です。 園の休校の影響で、休業補償もされなかったというブラックな園も未だに存在しています。コロナ渦の中での園外保育で、ソーシャルディスタンスや子どもにマスクを強要してきたりと、いわいる「自粛警察」の人達から、叱責のターゲットにされてしまったこともあります。 ⑤ Low reward(低い報酬):お給料の低さ 豊富な保育知識・技術とコミュニケーション能力が求められる保育者。そう、ジェネラリストだから、大切な命を預かることができるのです。ですが、求められる仕事内容とその対価が、あまりにも不均等過ぎます。 医療職より安い賃金で働いているのが現実です。 ⑥ 働きがい  人に認められたいという承認欲求は、人間がもっている生理的欲求の1つ。誰しもが認め尊いお仕事の1つに、医師などの医療従事者があります。ですが、保育者はどうですか?コロナ渦の中でも、頑張っているお仕事としてあまりメディアに登場してこないですよね。むしろ、医療従事者の子どもの受け入れを、保護者に自粛してもらおうとした事で、全国民(大袈裟ですが)から叩かれてしまったこともありました。努力が報われない、そんなんじゃ、働きがいなんて生まれるはずもありません。 ⑦ 仕事将来への不安  保育は重労働です。肩・腰・膝にダメージを与えながらの仕事。年齢が上がるにつれて強く感じていると思います。

あなたにとって、この仕事のやりがいは何ですか?(まとめ)

どうでしたか、保育者ならではのストレスを挙げてみました。あまりにもたくさん在り過ぎて、これじゃ、離職を考えているあなたがいても責められないです。 ただ、このようなストレスを浴びながらお仕事しても、ストレス反応が出る人、出ない人がいるとお話ししましたよね。 個人的要因である気質は、生まれもったものなので自力ではどうにもなりませんが、修飾要因の方はどうですか? 上司のサポートは得られますか?同僚は助けてくれますか?家族は応援してくれますか? 仕事のオーダーが、自分の能力を超え、漏れ始めたら、「教えてください」、「仕事手伝って」と外にHELPすることができたら、心の負担がだいぶ減りますよね。これって、感情を殺してしまう性格の方は、勇気がいる行動だと思います。でも、性格って、実は気質とは違い、役割などの行動で後天的に作り上げられるものなのです。 なので、考え方、物事のとらえ方を少しズラすだけ(女ってこんなもんだ、自分のせいで起こった事ではない、平等なんてこの世ない、期待なんてしないなど)で、行動は変わり、いつの間にか、開放的な性格になっていた。なんて事もあり得るのです。 保育は、決められた事をきちんと遂行しなければならないなど、コントロール(裁量・自由度)が低く、幸せや働きがいを感じにくいお仕事です。 臨機応変さも求められるなど、息が詰まりやすいお仕事です。けれど忘れないで下さい。子ども達にとって、憧れのお仕事が保育者なんです!女性の社会進出と活躍を支えているのも保育者なんです! あなたが、「ストレスが無駄に多くてやんなっちゃうけど、辞められないんだよね、この保育という仕事」と、達観を感じてくれたら嬉しいです。 (文責:小田原短期大学 准教授 医学博士 三浦由美)