「児童虐待に気づいたら・・・?どのような行動をとるべきかを考える」 | ももいくジョブ

児童虐待への対応~気づく・関わる・つなげる~

小田原短期大学保育学科で、「社会的養護」「相談援助」等を担当している上野です。 こんにちは。 前回は、「児童虐待の発見」について学びましたね。 今回は、児童虐待に気づいた保育士であるあなたがどのような行動をとればよいのか?について考える機会になれば幸いです。 さて、児童虐待防止法(正式名称:児童虐待の防止等に関する法律)には、虐待の防止、早期発見に努めなければならないと定められています。
(児童虐待の早期発見等) 第五条 学校、児童福祉施設、病院その他児童の福祉に業務上関係のある団体及び学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、保健師、弁護士その他児童の福祉に職務上関係のあるものは、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努め得なければならない。
 もし、虐待を発見した場合は、速やかに通告しなければなりません。
(児童虐待に係る通告) 第六条 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。
 保育者は子どもと日々の関わりの中で、子どもや保護者に見られる小さなサインを見逃さないことが重要です。子どもの様子が心配、親の様子が気にかかる、親子関係や生活が気になる、など、気づくことが第一歩です。気づくためのサインは前回の「児童虐待の発見」を参考にしましょう。

母子生活支援施設に入所したDVと児童虐待の事例

身体的虐待とネグレクトは比較的発見しやすいものです。不自然な怪我や打撲痕、火傷などがある、身体が不衛生、必要な治療をしようとしない、食に対して異常に執着がある、など、目に見えるところから気づくことができます。一方、心理的虐待はDVなど家庭の中のことは見えにくく、気になるけれどもはっきりわからないことがあります。また、親の言動が不適切とみられても、どこからが虐待なのか判断が難しいこともあります。さらに、性的虐待は表に出ることがない場合が多く、発見しにくいものです。乳幼児だから、性的虐待はないということはありません。親以外に身近な大人が加害者になったり、性犯罪に巻き込まれたりすることもあります。児童ポルノに関係するような事案も起こりえます。  子どもが幼いうちは心理的虐待や身体的虐待であったものが、子どもの成長とともに性虐待も加えられていくこともあります。幼いうちから性的な関わりを親などから強要される経験してしまうと、将来的に精神的な苦しみを抱えることにつながります。    次の事例は、私がかつて児童福祉施設に勤務した経験から、DVや子どもへの虐待による影響を示したものです。似たような事例を参考にして作話したものですが、このようなことは実際に起こっています。
【母子生活支援施設に入所したDVと児童虐待の事例】  母親は父親(夫)のDVと子どもへの虐待を理由に子ども3人(長女:16歳高校生、次女:14歳中学生、長男:3歳保育園児)を連れて家出をした。ある日、子ども3人を連れて家を出て、地元の警察に保護を求めた。そのきっかけは、夫が子どもに暴力を振るうとともに子ども部屋を破壊したことで、身の危険を感じたからだった。警察から地元の福祉事務所に連絡がいき、保護施設が紹介された。できるだけ遠いところに逃げたいとのことで、九州から関東方面の保護施設に入所することになった。その後、子どもたちの教育の環境を整える必要もあり、保護施設の隣県の母子生活支援施設に入所することとなった。 それまで母親は、きれいで大きな一軒家に暮らし、子ども3人を育てながら夫の自営業を手伝う生活をしてきた。夫は稼ぎもよく羽振りもよかった。夫の会社の一員として働くため長男は保育所に通わせていた。夫が許す範囲で趣味の習い事もしており、外から見れば経済的に豊かで幸せな家庭にしか見えなかった。けれども、母親は若くして結婚した後、長年にわたり夫に精神的に縛られる生活(心理的DV)を受け続けてきた。夫の言うことさえ聞いていれば暴力を受けることはなかった。母親は、「自分は“かごの中のカナリア”のようだった」と後に語る。また、夫は避妊に協力しなかった(性的DV)ため、女児たちと末っ子の間には何度か堕胎をしている。 子どもは夫にとって邪魔者でしかなく、長女と次女は幼いころから邪険に扱われ、心理的虐待の中で育ってきた。思春期になった頃から反発的な言動をするようになったところ、身体的な暴力も頻繁に受けるようになった。また、時に入浴していると父親が覗きに来たり、酒を飲んでは身体を触られる行為があったりし、子どもたちが限界状態になっていた。そのような状況の下、父親の子どもに対する決定的な暴力を機に家を飛び出したのだった。 母親は父親と子どもの関係が悪化することに不安を感じながらも、ずっと忍耐してきた。長年にわたる心理的DVの影響から母親はかなり精神的にダメージを受けており、心理的にケアが必要であり、就労よりも精神科通院を優先して支援する必要があった。長女と次女については、見ず知らずの土地で転校を余儀なくされた。しばらくは落ち着いていたが、ほどなく登校できなくなり、家庭内でちょっとしたことで姉妹が衝突し、激しい喧嘩が勃発するようになった。二人とも感情のコントロールができない状態になった。末っ子については、家庭の中で最も端に追いやられるような状況が見られた。母親にとって、長男はやむなく産まれてきた子どもであり、自分の気持ちの置き所がなく、幼い長男に必要な愛情を注げるような心身の状態ではなかった。 今後の子どもへの支援として、心理的な治療のため定期的なカウンセリングを勧めていく予定である。長男は保育園に入園することができ、生活のリズムは取れてきている。ただ、母親が無気力になっており、長男に対してネグレクト状態なのが課題である。母子生活支援施設では、学校や保育園と連携を取りながら母子の支援を行った。
この事例では、長男に関して2か所の保育所が関わっています。 一つ目は、家出をする前のDV環境にある時の保育所です。ここでは、この家族が抱えていた問題を把握できていたか否かはわかりません。外目には、普通の家庭であり、むしろ裕福で幸せな何の問題もない家庭に見えたかもしれません。それが、ある日突然、母子が姿をくらましたという事態となり、周囲が驚いたかもしれません。 二つ目は、転入してきた後の保育所です。母子生活支援施設で生活していることから、保育所と施設や福祉事務所等と連携しながら保育していくことになるでしょう。この母子が抱えている問題を把握しながら、長男の保育を通して母親支援も行う必要があります。この母子がどのような経緯で今に至っているか、母子生活支援施設ではどのような支援をしているか、母親の了解も得ながら情報を共有して支えていくことが求められるでしょう。このように、どのような背景があるかを知って関わるのと、知らずに関わるのとでは、保育の仕方も変わってくることがわかると思います。 (*注:情報を共有する場合は、本人の意向を踏むことが求められます。緊急の虐待対応でない場合については、当事者の了解を得て進めるようにします。)

児童虐待を見つけたら、その対処法

 保育者は子どもとその家族を見守り、支援する最前線に立つ立場です。子どもの様子をよく観察し、気になる場合にはより一層関わりを大切にしていかねばなりません。その際、子どもから家族の様子を聞くこともありますが、子どもの気持ちに配慮しなければなりません。子どもは虐待されていても、その通りに話をしないこともあります。不自然な怪我をしていても、「自分で転んだ」ということもあります。性的虐待などは口止めされていることもあります。無理に聞き取ることは避けた方がよいこともあります。どのような場合でも、親を非難するようなことを子どもの前で言ってはいけません。子どもは「それでも親が好き」だからです。 また、家族と話をする機会を増やすことも必要でしょう。日頃から、父親や祖父母とも話し合える関係を作るとよいでしょう。その際、家族を非難したり注意したりするのではなく、まずは、しっかりと受け止めて、真摯な姿勢で話を聞くことが大切です。虐待をする側にも様々な事情があるのですから、その大変さや辛さを受け止めることで保護者は話やすくなります。心を開くことができなければ、問題の本質に辿り着くことができません。   家族との関係が持てなかったり、状況が深刻で時間の猶予がなかったりする場合には、児童虐待防止法にあるように、市町村や児童相談所に通告しなければなりません。いわば、関係機関につなげるということです。虐待の程度や状況により、その対応は異なります。 虐待の兆候、疑いがある場合はどうする? ●判断に迷ったら… すぐに通告するかどうか迷うことも多いでしょう。虐待なのか、虐待と決めてしまってよいのか、その判断は悩むところです。実際の保育の現場では、むしろこのように親の関わり方が不適切と思われるけれども、すぐに通告する程度ではないと思うことも多いのではないでしょうか。急を要しない場合には、子どもの様子を観察しながら、また、親への関わりを続けながら判断していくことになります。子どもと家庭の状況を注意深く見守りながら、他の保育士や職員ともども留意しながらアセスメント(情報を集め整理する)しなければなりません。決して一人で判断せず、複数(園全体)で確認し、協議して進めましょう。  園全体で見守る場合は、その体制をきちんと取らねばなりません。担任(担当保育士)をサポートする体制です。園全体で対応すること、保護者に対しては非難や指導ではなく、「支援」の視点で関わります。どう支援するかを話し合う機会をなるべく多く持ち、共通認識で保育し、保護者支援をします。 子どもや親の状態や行動について、記録を取ることも大切です。経過を振り返ったり、ケース検討をしたり、事例研究をしたりする場合、記録がとても大切な証拠物になります。

まとめ

●通告したら…  虐待として通告する場合、その後の対応は関係機関と連携していくことになります。保育園としては、保護者との関係を切らないようにしなければなりません。保護者の中には、児童相談所に通告されたということで心を閉ざしたり、園を攻撃する言動をしたりするかもしれません。園長や主任を中心として、子どもを守るとともに保護者の訴えを受け止めながら対応します。「虐待であり、子どもも親も何とか良い方向に向かうために一緒に頑張りたい」という、毅然とした態度が必要でしょう。    難しく考えず、子どもと保護者をよりよい方向にむかうよう支援するという気持ちを忘れず、園全体で協力体制をとり、担任など一部の保育士だけが負担を担わされることなく、チームとして対応することが一番大切だと考えます。

(文責:小田原短期大学 准教授 上野文枝)
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